体の中心部である「体幹」を構成する、肋骨や鎖骨、骨盤の骨折も、比較的よく見られる怪我です。これらの骨折も、基本的には「整形外科」が診療の中心となりますが、骨折の場所や程度によっては、他の臓器への損傷を伴う可能性があり、注意が必要です。まず、「肋骨骨折」は、胸を強くぶつけたり、激しく咳き込んだりすることで起こります。主な症状は、深呼吸や咳、寝返りなどで、胸に響くような鋭い痛みです。多くの場合、骨のズレは少なく、特別な整復は必要ありません。治療は、バストバンドやサラシなどで胸郭を軽く固定し、痛み止めの薬を服用しながら、骨が自然につくのを待つ、保存的治療が基本となります。しかし、肋骨骨折で最も警戒すべきは、折れた骨の先端が、内側にある「肺」や「心臓」、「肝臓」といった重要な臓器を傷つけてしまうことです。特に、肺が損傷して空気が漏れてしまう「気胸」や、肺に出血が起こる「血胸」を合併した場合は、呼吸困難やショック状態に陥る危険性があります。このような内臓損傷を伴う重症の胸部外傷の場合は、整形外科だけでなく、「呼吸器外科」や「胸部外科」の医師による、緊急の処置(胸腔ドレナージなど)が必要となります。次に、「鎖骨骨折」は、転んで肩から落ちたり、手をついたりした際に、子どもから大人まで、幅広い年齢層で起こりやすい骨折です。鎖骨の中央部で折れることが多く、肩の変形や強い痛みを伴います。治療は、多くの場合、専用の固定帯(クラビクルバンド)を用いて、折れた骨を正しい位置に保つ、保存的治療が行われます。ただし、骨のズレが大きい場合や、皮膚を突き破りそうな場合(開放骨折)、あるいは神経や血管の損傷を伴う場合には、手術が必要となることもあります。そして、「骨盤骨折」は、主に交通事故や高所からの転落といった、非常に大きなエネルギーが加わった際に起こる、重篤な骨折です。骨盤は、リング状の構造をしており、その内側には、膀胱や尿道、直腸、そして女性では子宮といった重要な臓器が収められています。そのため、骨盤骨折は、これらの臓器損傷や、骨盤内の大きな血管が破れて、大量出血による出血性ショックを合併する危険性が非常に高いのです。したがって、骨盤骨折の治療は、整形外科医だけでなく、救急医、一般外科医、泌尿器科医などが連携して治療にあたる、集学的治療が必要となります。