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熱のぶり返し、それはマイコプラズマの特徴か
「マイコプラズマにかかって、薬を飲んだら一度は熱が下がったのに、数日後にまた熱が上がってきた」。このような「熱のぶり返し」、医学的には「二峰性発熱(にほうせいはつねつ)」と呼ばれる熱型は、患者さんや家族を非常に不安にさせます。これは、マイコプラズマ感染症に特徴的な現象なのでしょうか。結論から言うと、二峰性発熱は、マイコプラズマ感染症で「見られることがある」現象ですが、必ずしも典型的というわけではありません。しかし、その背景には、いくつかの注意すべき病態が隠れている可能性があります。まず、考えられるのが、前述の「合併症の発症」です。マイコプラズマ感染症そのものは、抗生物質の効果で一旦は下火になったものの、少し遅れて、細菌性の中耳炎や副鼻腔炎、あるいは肺炎などを合併し、それが新たな発熱の原因となっているケースです。特に、子どもが一度元気になったように見えたのに、再びぐったりして高熱を出した場合は、この可能性を考える必要があります。次に、マイコ- chíズマウイルス以外の「別のウイルスへの混合感染」も、一因として考えられます。特に、様々な感染症が流行する冬場には、マイコプラズマと同時に、あるいは少し時期をずらして、インフルエンザウイルスやアデノウイルスといった、別のウイルスにも感染してしまうことがあります。その場合、最初の熱がマイコプラズマによるもので、後の熱が、別のウイルスによるもの、という可能性が出てきます。また、マイコプラズマ感染症そのものの、免疫反応のプロセスとして、二峰性の経過をとることも、稀にはあり得ます。ウイルスや細菌と、体の免疫システムとの戦いが、二段階の山場を迎える、というイメージです。しかし、熱がぶり返した場合に、最も重要なのは、「何か別の問題が起きているのではないか」と、慎重に考える姿勢です。自己判断で「マイコプラズマはぶり返すものらしいから」と様子を見るのは危険です。熱が再び上がってきたら、それは体が発している新たなSOSサインであると捉え、必ず医療機関を再受診してください。医師は、全身の状態を注意深く診察し、聴診や血液検査、必要であればレントゲン撮影などを行い、合併症や混合感染の有無を評価し、適切な対応を判断してくれます。
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頭部・顔面骨折、脳神経外科と形成外科の専門領域
骨折は、体のどの骨にも起こりえますが、その場所によっては、整形外科だけでなく、より専門性の高い、他の診療科の対応が必要となることがあります。特に、「頭」と「顔」の骨折は、その代表例です。まず、転倒や交通事故、スポーツなどで頭を強く打ち、頭蓋骨の骨折が疑われる場合、あるいは骨折の有無にかかわらず、意識障害や、激しい頭痛、嘔吐、けいれんといった症状が見られる場合は、一刻を争う緊急事態であり、直ちに「脳神経外科」を受診する必要があります。頭蓋骨骨折そのものよりも、その内側にある「脳」へのダメージ(脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫など)が、生命に直接関わるからです。脳神経外科では、CT検査によって、頭蓋骨骨折の有無と、頭蓋内の出血や脳の損傷の程度を、迅速に評価します。そして、頭蓋内に出血が溜まって脳を圧迫している場合には、緊急の開頭手術(穿頭血腫除去術など)を行い、脳への圧力を取り除く処置をします。次に、顔面の骨、例えば、鼻の骨(鼻骨骨折)、頬骨(頬骨骨折)、目の周りの骨(眼窩底骨折、いわゆるブローアウト骨折)、そして顎の骨(顎骨骨折)などを骨折した場合です。これらの顔面骨骨折の治療においては、骨を治すという機能的な側面だけでなく、顔の形や見た目といった「整容的」な側面が、非常に重要になります。この、機能と整容の両方を専門的に扱うのが、「形成外科」です。形成外科医は、顔面の複雑な解剖を熟知しており、できるだけ傷跡が目立たない場所(口の中や、まぶたのしわなど)から切開を加え、チタン製のマイクロプレートなどを用いて、折れた骨を正確に元の位置に固定する、非常に繊細な手術を行います。特に、眼窩底骨折では、目の動きが悪くなって物が二重に見える(複視)ようになったり、眼球が陥没したりといった後遺症を防ぐために、専門的な手術が必要です。また、顎の骨折では、噛み合わせ(咬合)の問題が大きく関わるため、「歯科口腔外科」と形成外科が、連携して治療にあたることも少なくありません。このように、頭と顔の骨折は、その場所の特殊性から、それぞれの専門家による、高度な診断と治療が求められるのです。
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急増する薬剤耐性マイコプラズマと治療薬の変更
マイコプラズマ感染症の治療を受けているにもかかわらず、38.5度以上の高熱が、48時間から72時間以上たっても解熱しない。この場合、医師がまず考えるのが、「マクロライド耐性マイコプラズマ」に感染している可能性です。マイコプラズマは、「細胞壁」を持たないという特殊な性質を持つ微生物です。そのため、多くの細菌感染症で使われる、細胞壁の合成を阻害するペニシリン系やセフェム系の抗生物質は、全く効果がありません。マイコプラズマに有効なのは、菌のリボソームという器官に作用し、タンパク質の合成を阻害するタイプの抗生物質、すなわち「マクロライド系」「テトラサイクリン系」「ニューキノロン系」の三種類です。この中で、マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は、副作用が比較的少なく、子どもにも安全に使えることから、長年にわたり、マイコプラズマ感染症治療の第一選択薬として、世界中で広く使用されてきました。しかし、皮肉なことに、この広範な使用が、マクロライド系薬物では死なない、しぶとい耐性菌の出現と蔓延を招いてしまったのです。特に、日本の耐性菌の割合は、世界的に見ても非常に高く、近年の報告では、小児から分離されるマイコプラズマの8割以上が、マクロライド耐性であるとも言われています。したがって、最初に処方されたマクロライド系の薬で熱が下がらない場合は、治療方針の転換、すなわち「治療薬の変更(セカンドラインへのスイッチ)」が必要となります。その場合の選択肢となるのが、テトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)や、ニューキノロン系(トスフロキサシンなど)の抗生物質です。これらの薬は、マクロライド耐性菌に対しても、高い効果を発揮します。ただし、これらの薬には、子どもへの使用に関して、注意すべき点があります。テトラサイクリン系は、8歳未満の小児に使用すると、歯が黄色く着色してしまう副作用(歯牙黄染)の可能性があるため、原則として使用されません。また、ニューキノロン系も、動物実験で関節軟骨への影響が示唆されていることから、小児への使用は、そのリスクとベネフィットを慎重に考慮した上で、判断されます。医師は、患者の年齢や重症度を鑑み、これらの代替薬の中から、最適なものを選択します。薬を変更した後、速やかに解熱するようであれば、耐性菌が原因であった可能性が非常に高いと言えるでしょう。
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まとめ。骨折で迷ったら、まず整形外科へ
ここでは、これまでの内容を総括し、「骨折」が疑われる際に、どのように考え、どの診療科を目指すべきかの行動指針を、シンプルに整理します。大原則:骨折が疑われる場合の第一選択は、常に「整形外科」です。整形外科は、骨・関節の診断と治療のスペシャリストであり、ほとんどの骨折に対応できる、最も信頼性の高い窓口です。迷ったら、まずは整形外科を目指すのが、最も確実で安全な選択と言えます。ただし、状況に応じて、より適切な専門科が存在することも事実です。そのための思考プロセスを、以下に示します。Step 1:怪我をした場所と、伴う症状で、緊急性を判断する。①頭を強く打ったか? → 意識がおかしい、吐き気がする、けいれんしている。このような場合は、脳へのダメージが最優先事項です。ためらわずに救急車を呼び、「脳神経外科」のある病院へ向かう必要があります。②顔を強く打ったか? → 鼻血が止まらない、物が二重に見える、噛み合わせがおかしい。このような場合は、顔面の機能と見た目の回復を専門とする「形成外科」や「歯科口腔外科」がより適しています。③胸や骨盤を強く打ったか? → 呼吸が苦しい、お腹が痛い。このような場合は、肺や内臓の損傷を伴う可能性があり、救急外来での総合的な評価が必要です。**Step 2:緊急性はないが、四肢(手足)の骨折が疑われる場合。**これは、整形外科の最も得意とする領域です。「腕や足が、明らかに変な方向に曲がっている(変形)」「関節ではない場所が、ぐらぐら動く(異常可動性)」「強い痛みと腫れで、全く動かせない」。これらのサインがあれば、骨折の可能性は非常に高いです。夜間や休日であっても、整形外科医のいる救急病院を受診しましょう。**Step 3:子どもの骨折が疑われる場合。**子どもは、痛みをうまく表現できなかったり、レントゲンでは分かりにくい特殊な骨折をしていたりすることがあります。可能であれば、「小児整形外科」を標榜している専門医の診察を受けるのが最も理想的です。骨折の治療は、初期対応がその後の回復を大きく左右します。自己判断で「ただの打撲だろう」と放置してしまうと、骨がずれたまま固まってしまったり、関節の動きが悪くなったりする原因となります。痛みや腫れが強い場合は、ためらわずに、まずは整形外科の扉を叩いてください。
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水疱瘡とかゆみ対策、掻き壊しを防ぐために
水疱瘡の症状の中で、発熱と並んで、子ども本人を最も苦しめるのが、全身に広がる発疹に伴う、我慢できないほどの「かゆみ」です。このかゆみのために、水疱を掻き壊してしまうと、様々な厄介な問題を引き起こすため、いかにして掻き壊しを防ぐかが、水疱瘡のケアにおける最大のポイントとなります。掻き壊しがなぜいけないのか。まず、水疱が破れた傷口から、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌などが侵入し、「細菌による二次感染」を起こすリスクが非常に高くなります。感染を起こすと、傷口が化膿して、ジュクジュクとした「とびひ(伝染性膿痂疹)」になったり、さらに炎症が広がって、皮膚が赤く硬く腫れる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」になったりすることがあります。こうなると、抗生物質による治療が必要となり、治癒までの期間も長引いてしまいます。また、掻き壊しは、「傷跡(瘢痕)」が残る最大の原因です。水疱が自然にかさぶたになって剥がれ落ちれば、通常は跡を残さずにきれいに治ります。しかし、無理に掻き壊して、皮膚の深い層である真皮まで傷つけてしまうと、クレーターのような、へこんだ跡が永続的に残ってしまうことがあるのです。特に、顔の発疹を気にして掻いてしまうと、美容的な問題にも繋がります。では、どうすれば掻き壊しを防げるのでしょうか。まず、医療機関で処方される「かゆみ止めの薬」を適切に使いましょう。抗ヒスタミン薬の飲み薬は、かゆみの原因物質の働きを抑え、体の中からかゆみを和らげてくれます。また、塗り薬である「カチリ(フェノール・亜鉛華リニメント)」は、乾燥させてかゆみを鎮める効果があります。次に、家庭でのケアです。子どもの「爪は短く」切り、やすりで丸くしておきましょう。寝ている間に無意識に掻いてしまうのを防ぐため、夜間は「ミトンや手袋」を着けさせるのも有効です。衣類や寝具は、肌触りの良い「綿素材」のものを選び、皮膚への刺激を最小限にします。そして、かゆみは体が温まると強くなるため、「涼しい環境」を保つことが大切です。汗をかいたら、こまめに着替えさせ、ぬるめのシャワーで汗を流して、皮膚を清潔に保ちましょう。どうしてもかゆがる時は、冷たいタオルで「優しく冷やす」と、一時的にかゆみが紛れます。これらの対策を組み合わせ、親子で協力して、つらいかゆみの時期を乗り切りましょう。
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骨折を疑ったらまず何科?最適な診療科の選び方
転んで手をついた、スポーツ中に強く体をひねった、あるいは交通事故に遭った。このような強い外力が体に加わった後、特定の場所に激しい痛みや腫れ、変形が現れた時、誰もが「もしかして骨が折れたのではないか?」と不安になるでしょう。骨折は、日常生活の中に潜む、決して稀ではない怪我です。そして、骨折を疑った際に、迅速かつ適切に受診すべき診療科は、骨・関節・筋肉といった「運動器」の専門家である「整形外科」です。整形外科は、骨折の診断から治療、そしてその後のリハビリテーションまでを、一貫して専門的に行う、まさに骨折治療の中心的な役割を担う診療科です。骨折の診断には、まず「レントゲン(X線)撮影」が不可欠であり、ほとんどの整形外科クリニックや病院には、この設備が整っています。レントゲンで骨の状態を詳しく見ることで、骨が折れているか、折れている場合はどのように折れているか(骨折のタイプ)、そして骨の位置がずれているか(転位)などを、正確に診断することができます。しかし、骨折した部位や、伴う症状によっては、整形外科以外の科が関わってくることもあります。例えば、頭を強く打って、頭蓋骨骨折や脳へのダメージが疑われる場合は、「脳神経外科」での緊急対応が必要です。また、顔の骨(鼻骨、頬骨、顎骨など)を骨折した場合は、顔面の機能と整容(見た目)の両方を専門とする「形成外科」や、噛み合わせの問題が関わる場合は「歯科口腔外科」が、治療を担当することもあります。この記事シリーズでは、骨折の基本的な知識から、部位別の特徴、そして適切な診療科の選び方までを詳しく解説し、万が一の際に、あなたが冷静で的確な行動をとるための手助けをします。
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子どもの骨折、小児整形外科の重要性
子どもは、活発に動き回るため、転んだり、高い所から落ちたりして、骨折をすることが少なくありません。子どもの骨折を診察・治療するのは、基本的には「整形外科」ですが、可能であれば、「小児整形外科」を専門とする医師の診察を受けることが、より望ましいと言えます。なぜなら、子どもの骨は、大人の骨とは大きく異なる、いくつかの重要な特徴を持っており、その特性を十分に理解した上で、治療を行う必要があるからです。子どもの骨の最大の特徴は、「成長している」という点です。骨の両端には、「骨端線(成長軟骨板)」と呼ばれる、骨が成長していくための、柔らかい軟骨の層が存在します。もし、骨折がこの骨端線を損傷してしまうと、その後の骨の成長に影響を及ぼし、手足の長さが変わってしまったり、関節が変形してしまったりする「成長障害」という、深刻な後遺症を残す可能性があります。そのため、骨端線損傷を伴う骨折の治療には、極めて正確な整復と、慎重な経過観察が求められます。また、子どもの骨は、大人の骨に比べて、柔らかく、弾力性に富んでいます。そのため、ポキっと完全に折れてしまうのではなく、若木の枝を折るように、ぐにゃっと曲がったり、一部だけが断裂したりする「若木骨折」や「骨膜下骨折」といった、子ども特有の骨折のパターンを示します。これらの骨折は、レントゲン写真では非常に分かりにくいこともあり、見逃されやすいという特徴があります。さらに、子どもの骨は、自家矯正力、すなわち、多少の変形であれば、成長と共に自然にまっすぐに治っていくという、驚くべき能力を持っています。しかし、その矯正力には限界があり、どの程度の変形までが許容範囲なのかを判断するには、子どもの成長に関する深い知識と経験が必要です。小児整形外科医は、これらの子どもの骨の特性を熟知しており、将来的な成長障害のリスクを最小限に抑え、かつ、子どもにとって最も負担の少ない治療法(手術を避ける保存的治療など)を選択するための、専門的な判断を下すことができます。子どもの骨折が疑われる場合は、できるだけ小児整形外科を標榜している医療機関を受診することをお勧めします。
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麦粒腫の合併症、眼瞼蜂窩織炎の恐怖
麦粒腫は、ほとんどの場合、適切な治療を行えば、後遺症なくきれいに治癒する、比較的予後の良い病気です。しかし、ごく稀に、炎症がまぶたの奥深くにまで広がり、重篤な合併症を引き起こすことがあります。その代表が、「眼瞼蜂窩織炎(がんけんほうかしきえん)」です。これは、麦粒腫を放置したり、自分で無理に潰してしまったりした結果、原因菌である黄色ブドウ球菌などが、皮膚の深い層(皮下組織)にまで侵入し、広範囲にわたって、急性の化膿性炎症を引き起こした状態です。眼瞼蜂窩織炎を発症すると、麦粒腫のような、限局した腫れとは比較にならないほど、まぶた全体が、赤く、硬く、そして熱感を持って、パンパンに腫れあがります。目が開けられないほど腫れることも少なくありません。ズキズキとした激しい痛みを伴い、多くの場合、発熱や悪寒、全身の倦怠感といった、強い全身症状が現れます。そして、この病気で最も恐ろしいのが、炎症がさらに奥へと波及することです。まぶたの裏側には、眼球が収まっている、頭蓋骨のくぼみである「眼窩(がんか)」があります。眼瞼蜂窩織炎から、炎症がこの眼窩内にまで及んでしまうと、「眼窩蜂窩織炎(がんかほうかしきえん)」という、さらに重篤な状態に移行します。眼窩蜂窩織炎になると、まぶたの強い腫れに加えて、眼球が前方に突き出てきたり(眼球突出)、目の動きが悪くなって、物が二重に見えたり(複視)、視力が低下したりといった、眼球そのものに関わる症状が現れます。さらに、炎症が、眼球の裏にある視神経や、脳を包む膜(髄膜)、あるいは脳そのものにまで及ぶと、失明や髄膜炎、脳膿瘍といった、生命に関わる、あるいは永続的な後遺症を残す、極めて危険な状態に陥る可能性があります。したがって、麦粒腫ができて、まぶたの腫れが異常に強い、高熱が出ている、目の動きがおかしい、といった症状が見られた場合は、単なるものもらいだと軽視せず、直ちに眼科を受診してください。眼瞼蜂窩織炎と診断された場合は、強力な抗生物質の点滴投与が必要となるため、多くは入院での治療となります。
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大人がかかると重症化しやすい水疱瘡の症状
水疱瘡は、一般的に「子どもの病気」というイメージが強いですが、免疫を持っていない大人が感染すると、子どもとは比較にならないほど、症状が重く、つらい経過をたどることが多いとされています。子どもの頃に水疱瘡にかかったことがなく、ワクチンも未接種の人は、特に注意が必要です。大人の水疱瘡は、まず、発疹が出現する前の「前駆症状」が、子どもよりも強く現れる傾向があります。1~2日間、39度を超えるような高熱と共に、インフルエンザのような激しい頭痛、筋肉痛、関節痛、そして強い全身倦怠感に襲われます。この時点では、まさか水疱瘡だとは思いもしないことが多いです。そして、その後に出現する「発疹」も、子どもに比べて、数が多く、一つ一つの水疱が大きくなる傾向があります。かゆみだけでなく、ズキズキとした痛みを伴うことも少なくありません。発疹が治った後も、色素沈着が長く残ったり、瘢痕(はんこん)になりやすかったりします。しかし、大人の水疱瘡で最も警戒しなければならないのが、「合併症」のリスクの高さです。最も頻度が高く、注意が必要な合併症が「水痘肺炎」です。これは、水痘・帯状疱疹ウイルスが、肺に直接感染して肺炎を引き起こすもので、特に喫煙者や、妊娠中の女性は、重症化するリスクが高いとされています。激しい咳や、胸の痛み、呼吸困難といった症状が現れ、入院治療や、時には人工呼吸器管理が必要となることもある、命に関わる状態です。また、「水痘脳炎」も、稀ですが重篤な合併症です。激しい頭痛や、嘔吐、意識障害、けいれんといった症状が現れ、後遺症を残す可能性もあります。これらの重篤な合併症を防ぐため、大人が水疱瘡を発症した場合は、早期に医療機関(内科や皮膚科)を受診し、ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」の投与を開始することが強く推奨されます。抗ウイルス薬は、発症から72時間以内に服用を開始すると、症状の重症化や合併症のリスクを軽減する効果が期待できます。
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ピンセット除去の痛みと麻酔テープ(ペンレス)の正しい使い方
水いぼのピンセット除去を検討する上で、保護者が最も心配し、躊躇する原因となるのが、処置に伴う「痛み」です。水いぼをピンセットでつまみ取るという行為は、当然ながら痛みを伴い、特に感受性の高い子どもにとっては、大きな恐怖と苦痛を伴う体験となり得ます。この痛みの問題を解決するために、現在では、多くの医療機関で「麻酔テープ」が積極的に活用されています。麻酔テープは、局所麻酔薬(リドカインなど)が染み込んだシール状の貼り薬で、代表的なものに「ペンレステープ」や「リドカインテープ」があります。これを、水いぼを除去する予定の場所に、処置の約1時間前から貼っておくことで、皮膚の表面の感覚を麻痺させ、ピンセットで取る際の痛みを大幅に、あるいはほとんど感じなくさせることができます。この麻酔テープの効果を最大限に引き出すためには、正しい使い方が非常に重要です。まず、医師から処方されたテープを、除去したい水いぼの上に、空気が入らないようにぴったりと貼り付けます。テープは、水いぼそのものよりも少し大きめに覆うように貼るのがコツです。そして、テープが剥がれないように、その上からさらに防水性のフィルム(ドレッシング材)などで覆うと、麻酔成分がより効果的に皮膚に浸透します。最も重要なのが、「貼る時間」です。十分な麻酔効果が得られるまでには、少なくとも1時間、できれば1時間半から2時間程度は貼っておく必要があります。病院へ行く直前に慌てて貼っても、効果は期待できません。医療機関によっては、受診する1〜2時間前に自宅で貼ってくるように、事前にテープを処方してくれるところも多いです。ただし、麻酔テープは医薬品であり、副作用(皮膚の発赤、かゆみ、稀にショック症状など)のリスクもゼロではありません。使用する際は、必ず医師の指示に従い、用法・用量を守ることが大切です。この麻酔テープの登場により、かつては子どもが泣き叫びながら押さえつけられて行われていた水いぼの除去が、はるかに穏やかで、人道的な治療へと変わりました。治療を検討する際は、麻酔テープの使用について、事前に医療機関に確認することをお勧めします。