お尻からの出血や痛み、しこりといった症状があると、多くの人は「いぼ痔だろう」と自己判断しがちです。確かに、これらの症状の最も一般的な原因はいぼ痔(痔核)ですが、中にはよく似た症状を示す、より深刻な病気が隠れている可能性があるため、安易な自己判断は非常に危険です。いぼ痔と間違いやすい病気の代表格が「大腸がん(直腸がん・肛門がん)」です。特に、肛門に近い直腸にがんができた場合、排便時の出血や残便感、便が細くなるといった症状が現れ、痔の症状と酷似しています。市販の痔の薬を使って様子を見ているうちに、がんが進行してしまったというケースも少なくありません。出血の色も一つの目安ですが、必ずしも信頼できるわけではありません。一般的に痔の出血は鮮やかな赤色(鮮血)、がんの出血は暗赤色と言われますが、がんが肛門近くにある場合は鮮血が出ることもあります。自己判断で「痔の出血だ」と決めつけず、専門医の診察を受けることが極めて重要です。また、「裂肛(切れ痔)」もいぼ痔と混同されやすい病気です。硬い便の通過などによって肛門の皮膚が切れるもので、排便時に鋭い痛みと少量の出血を伴います。痛みが主な症状である点が、いぼ痔との違いの一つです。さらに、肛門の周りに膿がたまる「肛門周囲膿瘍」も、お尻の腫れや熱感、激しい痛みを引き起こします。これをいぼ痔の腫れだと思い込んでいると、膿瘍が進行し、治療が複雑な「痔ろう」に発展してしまう恐れがあります。その他にも、炎症性腸疾患である「クローン病」などが、肛門部に複雑な病変を作ることもあります。これらの病気は、肛門科医が指診や肛門鏡、場合によっては大腸内視鏡検査を行うことで初めて正確な診断が可能になります。もし、いぼ痔の市販薬を一週間以上使用しても症状が改善しない場合や、出血が続く、体重が減少する、便が細くなるなどの症状が見られる場合は、決して放置せず、速やかに肛門科や消化器外科を受診してください。早期発見・早期治療が、あなた自身の健康を守るための最も確実な方法なのです。