糖尿病という病気の本当に恐ろしい点は、病気そのものによる自覚症状が、初期にはほとんどないこと、そして、気づかないうちに、全身の血管に深刻なダメージを与え、様々な「合併症」を引き起こすことにあります。この合併症こそが、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させ、時には命に関わる事態を招く、最大の脅威なのです。糖尿病の合併症は、主に、細い血管が障害される「細小血管症」と、太い血管が障害される「大血管症」に分けられます。中でも、糖尿病に特有の合併症として知られるのが、細小血管症である「三大合併症」です。第一に、「糖尿病網膜症」です。これは、目の奥にある、光を感じるための重要な膜である「網膜」の細い血管が、高血糖によってダメージを受け、出血したり、詰まったりする病気です。初期には自覚症状が全くありませんが、進行すると、視力が低下し、最悪の場合は失明に至ります。成人の失明原因の、常に上位を占めるのが、この糖尿病網膜症です。第二に、「糖尿病性腎症」です。腎臓は、血液を濾過して、老廃物を尿として排出する、フィルターの役割を担っています。高血糖が続くと、この腎臓のフィルター機能を持つ、糸球体という部分の細い血管が傷つき、徐々に機能が失われていきます。進行すると、体内に老廃物が溜まってしまう「腎不全」という状態になり、最終的には、生命を維持するために、週に数回の「人工透析」が必要となります。第三に、「糖尿病性神経障害」です。これは、神経細胞に栄養を送る細い血管が障害されたり、高血糖そのものが神経にダメージを与えたりすることで、全身の末梢神経に異常が生じる病気です。足の先や裏から、ジンジン、ピリピリとした、しびれや痛みが始まることが多く、進行すると感覚が鈍くなり、怪我ややけどに気づきにくくなります。これが、足の潰瘍や壊疽の原因となるのです。これらの三大合併症は、いずれも、血糖コントロールを良好に保つことで、その発症や進行を、大幅に遅らせることができます。しかし、一度進行してしまうと、元の状態に戻すことは非常に困難です。だからこそ、自覚症状がない早い段階で、健康診断や検査によって糖尿病を発見し、手遅れになる前に、適切な治療と管理を開始することが、何よりも重要となるのです。
糖尿病の三大合併症、なぜ早期発見が重要なのか