骨折は、体のどの骨にも起こりえますが、その場所によっては、整形外科だけでなく、より専門性の高い、他の診療科の対応が必要となることがあります。特に、「頭」と「顔」の骨折は、その代表例です。まず、転倒や交通事故、スポーツなどで頭を強く打ち、頭蓋骨の骨折が疑われる場合、あるいは骨折の有無にかかわらず、意識障害や、激しい頭痛、嘔吐、けいれんといった症状が見られる場合は、一刻を争う緊急事態であり、直ちに「脳神経外科」を受診する必要があります。頭蓋骨骨折そのものよりも、その内側にある「脳」へのダメージ(脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫など)が、生命に直接関わるからです。脳神経外科では、CT検査によって、頭蓋骨骨折の有無と、頭蓋内の出血や脳の損傷の程度を、迅速に評価します。そして、頭蓋内に出血が溜まって脳を圧迫している場合には、緊急の開頭手術(穿頭血腫除去術など)を行い、脳への圧力を取り除く処置をします。次に、顔面の骨、例えば、鼻の骨(鼻骨骨折)、頬骨(頬骨骨折)、目の周りの骨(眼窩底骨折、いわゆるブローアウト骨折)、そして顎の骨(顎骨骨折)などを骨折した場合です。これらの顔面骨骨折の治療においては、骨を治すという機能的な側面だけでなく、顔の形や見た目といった「整容的」な側面が、非常に重要になります。この、機能と整容の両方を専門的に扱うのが、「形成外科」です。形成外科医は、顔面の複雑な解剖を熟知しており、できるだけ傷跡が目立たない場所(口の中や、まぶたのしわなど)から切開を加え、チタン製のマイクロプレートなどを用いて、折れた骨を正確に元の位置に固定する、非常に繊細な手術を行います。特に、眼窩底骨折では、目の動きが悪くなって物が二重に見える(複視)ようになったり、眼球が陥没したりといった後遺症を防ぐために、専門的な手術が必要です。また、顎の骨折では、噛み合わせ(咬合)の問題が大きく関わるため、「歯科口腔外科」と形成外科が、連携して治療にあたることも少なくありません。このように、頭と顔の骨折は、その場所の特殊性から、それぞれの専門家による、高度な診断と治療が求められるのです。
頭部・顔面骨折、脳神経外科と形成外科の専門領域