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水疱瘡とかゆみ対策、掻き壊しを防ぐために
水疱瘡の症状の中で、発熱と並んで、子ども本人を最も苦しめるのが、全身に広がる発疹に伴う、我慢できないほどの「かゆみ」です。このかゆみのために、水疱を掻き壊してしまうと、様々な厄介な問題を引き起こすため、いかにして掻き壊しを防ぐかが、水疱瘡のケアにおける最大のポイントとなります。掻き壊しがなぜいけないのか。まず、水疱が破れた傷口から、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌などが侵入し、「細菌による二次感染」を起こすリスクが非常に高くなります。感染を起こすと、傷口が化膿して、ジュクジュクとした「とびひ(伝染性膿痂疹)」になったり、さらに炎症が広がって、皮膚が赤く硬く腫れる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」になったりすることがあります。こうなると、抗生物質による治療が必要となり、治癒までの期間も長引いてしまいます。また、掻き壊しは、「傷跡(瘢痕)」が残る最大の原因です。水疱が自然にかさぶたになって剥がれ落ちれば、通常は跡を残さずにきれいに治ります。しかし、無理に掻き壊して、皮膚の深い層である真皮まで傷つけてしまうと、クレーターのような、へこんだ跡が永続的に残ってしまうことがあるのです。特に、顔の発疹を気にして掻いてしまうと、美容的な問題にも繋がります。では、どうすれば掻き壊しを防げるのでしょうか。まず、医療機関で処方される「かゆみ止めの薬」を適切に使いましょう。抗ヒスタミン薬の飲み薬は、かゆみの原因物質の働きを抑え、体の中からかゆみを和らげてくれます。また、塗り薬である「カチリ(フェノール・亜鉛華リニメント)」は、乾燥させてかゆみを鎮める効果があります。次に、家庭でのケアです。子どもの「爪は短く」切り、やすりで丸くしておきましょう。寝ている間に無意識に掻いてしまうのを防ぐため、夜間は「ミトンや手袋」を着けさせるのも有効です。衣類や寝具は、肌触りの良い「綿素材」のものを選び、皮膚への刺激を最小限にします。そして、かゆみは体が温まると強くなるため、「涼しい環境」を保つことが大切です。汗をかいたら、こまめに着替えさせ、ぬるめのシャワーで汗を流して、皮膚を清潔に保ちましょう。どうしてもかゆがる時は、冷たいタオルで「優しく冷やす」と、一時的にかゆみが紛れます。これらの対策を組み合わせ、親子で協力して、つらいかゆみの時期を乗り切りましょう。
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なぜ麦粒腫を繰り返す?再発予防のためにできること
一度治ったはずの麦粒腫が、しばらくすると、また同じような場所にできてしまう。このように、麦粒腫を何度も繰り返してしまう人がいます。なぜ、特定の人が、麦粒腫を再発しやすいのでしょうか。その背景には、個人の体質や、生活習慣、そして環境が深く関わっています。麦粒腫を繰り返さないためには、その原因を理解し、日々の生活を見直すことが重要です。再発の最も大きな原因は、やはり「免疫力の低下」です。仕事が忙しくて、慢性的に睡眠不足であったり、不規則な食生活が続いていたり、あるいは精神的なストレスを強く感じていたりすると、体の抵抗力は常に低い状態にあります。このような状態では、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌の活動を、十分に抑え込むことができず、些細なきっかけで、すぐに感染を起こしてしまいます。麦粒腫が「体が疲れているサイン」と言われるのは、このためです。次に、「衛生環境と生活習慣」も、再発に大きく関わります。無意識のうちに、汚れた手で目をこする癖がある人は、常に細菌を目の周りに運んでいることになります。また、コンタクトレンズのケアが不十分な人も、再発のリスクが高いと言えます。レンズの洗浄を怠ったり、保存ケースを清潔に保っていなかったり、あるいは使用期限を過ぎたレンズを使い続けたりすると、レンズそのものが細菌の温床となります。女性の場合は、「アイメイク」が再発の大きな原因となることがあります。特に、まつ毛の内側の粘膜部分にまでアイラインを引く「インサイドライン」は、マイボーム腺の出口を塞いでしまい、炎症を起こしやすくします。また、メイクを完全に落としきれずに眠ってしまうことも、細菌の増殖を助長します。アイシャドウのチップや、マスカラのブラシなどを、長期間洗わずに使い続けていると、そこに菌が繁殖し、メイクをするたびに、目に菌を塗り込んでいることにもなりかねません。再発を予防するためには、まず、十分な睡眠と、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、ストレスを溜めないようにして、免疫力を高く保つことが基本です。そして、目を清潔に保つ習慣を徹底します。コンタクトレンズは正しくケアし、アイメイクは帰宅後すぐに、専用のリムーバーで丁寧に落としましょう。メイク道具も、定期的に洗浄・交換することが大切です。
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骨折を疑ったらまず何科?最適な診療科の選び方
転んで手をついた、スポーツ中に強く体をひねった、あるいは交通事故に遭った。このような強い外力が体に加わった後、特定の場所に激しい痛みや腫れ、変形が現れた時、誰もが「もしかして骨が折れたのではないか?」と不安になるでしょう。骨折は、日常生活の中に潜む、決して稀ではない怪我です。そして、骨折を疑った際に、迅速かつ適切に受診すべき診療科は、骨・関節・筋肉といった「運動器」の専門家である「整形外科」です。整形外科は、骨折の診断から治療、そしてその後のリハビリテーションまでを、一貫して専門的に行う、まさに骨折治療の中心的な役割を担う診療科です。骨折の診断には、まず「レントゲン(X線)撮影」が不可欠であり、ほとんどの整形外科クリニックや病院には、この設備が整っています。レントゲンで骨の状態を詳しく見ることで、骨が折れているか、折れている場合はどのように折れているか(骨折のタイプ)、そして骨の位置がずれているか(転位)などを、正確に診断することができます。しかし、骨折した部位や、伴う症状によっては、整形外科以外の科が関わってくることもあります。例えば、頭を強く打って、頭蓋骨骨折や脳へのダメージが疑われる場合は、「脳神経外科」での緊急対応が必要です。また、顔の骨(鼻骨、頬骨、顎骨など)を骨折した場合は、顔面の機能と整容(見た目)の両方を専門とする「形成外科」や、噛み合わせの問題が関わる場合は「歯科口腔外科」が、治療を担当することもあります。この記事シリーズでは、骨折の基本的な知識から、部位別の特徴、そして適切な診療科の選び方までを詳しく解説し、万が一の際に、あなたが冷静で的確な行動をとるための手助けをします。
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子どもの骨折、小児整形外科の重要性
子どもは、活発に動き回るため、転んだり、高い所から落ちたりして、骨折をすることが少なくありません。子どもの骨折を診察・治療するのは、基本的には「整形外科」ですが、可能であれば、「小児整形外科」を専門とする医師の診察を受けることが、より望ましいと言えます。なぜなら、子どもの骨は、大人の骨とは大きく異なる、いくつかの重要な特徴を持っており、その特性を十分に理解した上で、治療を行う必要があるからです。子どもの骨の最大の特徴は、「成長している」という点です。骨の両端には、「骨端線(成長軟骨板)」と呼ばれる、骨が成長していくための、柔らかい軟骨の層が存在します。もし、骨折がこの骨端線を損傷してしまうと、その後の骨の成長に影響を及ぼし、手足の長さが変わってしまったり、関節が変形してしまったりする「成長障害」という、深刻な後遺症を残す可能性があります。そのため、骨端線損傷を伴う骨折の治療には、極めて正確な整復と、慎重な経過観察が求められます。また、子どもの骨は、大人の骨に比べて、柔らかく、弾力性に富んでいます。そのため、ポキっと完全に折れてしまうのではなく、若木の枝を折るように、ぐにゃっと曲がったり、一部だけが断裂したりする「若木骨折」や「骨膜下骨折」といった、子ども特有の骨折のパターンを示します。これらの骨折は、レントゲン写真では非常に分かりにくいこともあり、見逃されやすいという特徴があります。さらに、子どもの骨は、自家矯正力、すなわち、多少の変形であれば、成長と共に自然にまっすぐに治っていくという、驚くべき能力を持っています。しかし、その矯正力には限界があり、どの程度の変形までが許容範囲なのかを判断するには、子どもの成長に関する深い知識と経験が必要です。小児整形外科医は、これらの子どもの骨の特性を熟知しており、将来的な成長障害のリスクを最小限に抑え、かつ、子どもにとって最も負担の少ない治療法(手術を避ける保存的治療など)を選択するための、専門的な判断を下すことができます。子どもの骨折が疑われる場合は、できるだけ小児整形外科を標榜している医療機関を受診することをお勧めします。
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麦粒腫の合併症、眼瞼蜂窩織炎の恐怖
麦粒腫は、ほとんどの場合、適切な治療を行えば、後遺症なくきれいに治癒する、比較的予後の良い病気です。しかし、ごく稀に、炎症がまぶたの奥深くにまで広がり、重篤な合併症を引き起こすことがあります。その代表が、「眼瞼蜂窩織炎(がんけんほうかしきえん)」です。これは、麦粒腫を放置したり、自分で無理に潰してしまったりした結果、原因菌である黄色ブドウ球菌などが、皮膚の深い層(皮下組織)にまで侵入し、広範囲にわたって、急性の化膿性炎症を引き起こした状態です。眼瞼蜂窩織炎を発症すると、麦粒腫のような、限局した腫れとは比較にならないほど、まぶた全体が、赤く、硬く、そして熱感を持って、パンパンに腫れあがります。目が開けられないほど腫れることも少なくありません。ズキズキとした激しい痛みを伴い、多くの場合、発熱や悪寒、全身の倦怠感といった、強い全身症状が現れます。そして、この病気で最も恐ろしいのが、炎症がさらに奥へと波及することです。まぶたの裏側には、眼球が収まっている、頭蓋骨のくぼみである「眼窩(がんか)」があります。眼瞼蜂窩織炎から、炎症がこの眼窩内にまで及んでしまうと、「眼窩蜂窩織炎(がんかほうかしきえん)」という、さらに重篤な状態に移行します。眼窩蜂窩織炎になると、まぶたの強い腫れに加えて、眼球が前方に突き出てきたり(眼球突出)、目の動きが悪くなって、物が二重に見えたり(複視)、視力が低下したりといった、眼球そのものに関わる症状が現れます。さらに、炎症が、眼球の裏にある視神経や、脳を包む膜(髄膜)、あるいは脳そのものにまで及ぶと、失明や髄膜炎、脳膿瘍といった、生命に関わる、あるいは永続的な後遺症を残す、極めて危険な状態に陥る可能性があります。したがって、麦粒腫ができて、まぶたの腫れが異常に強い、高熱が出ている、目の動きがおかしい、といった症状が見られた場合は、単なるものもらいだと軽視せず、直ちに眼科を受診してください。眼瞼蜂窩織炎と診断された場合は、強力な抗生物質の点滴投与が必要となるため、多くは入院での治療となります。
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私が体験した子供の水いぼピンセット治療
あれは、当時4歳だった娘の膝の裏に、キラリと光る小さなブツブツを一つ見つけたのが始まりでした。最初はただの湿疹かと思っていたのですが、数週間経つと、その周りに同じようなブツブツがポツポツと増え始めました。「これはおかしい」と、近所の皮膚科を受診したところ、あっさりと「水いぼですね」と診断されました。医師からは、「自然に治るのを待つ方法もありますが、スイミングに通っているなら、取った方が良いでしょう。麻酔のテープを使えば、痛みはかなり抑えられますよ」と説明され、私たちはピンセットでの除去をお願いすることにしました。処置の予約日の一週間前、麻酔薬である「ペンレステープ」が処方されました。そして当日、予約時間の1時間半前に、指示通り、10個ほどの水いぼ全てに、テープを小さく切って貼り、その上から防水フィルムでしっかりと覆いました。病院の待合室で待っている間、私の心臓はバクバクでした。娘が痛みで泣き叫ぶのではないか、トラウマになってしまうのではないか。しかし、診察室に呼ばれ、いざ処置が始まると、私の心配は杞憂に終わりました。看護師さんが娘の気をそらしながら、医師が手際よく、一つ、また一つと、ピンセットで水いぼをつまみ取っていきます。娘は、少し眉をひそめ、「なんかチクっとする」とは言いましたが、泣くことはおろか、ほとんど痛がるそぶりを見せませんでした。麻酔テープの効果は絶大でした。処置は10分もかからずに終了し、取った後の小さな傷口には、抗生物質入りの軟膏を塗って、絆創膏を貼ってもらいました。その日の夜、お風呂に入る時に絆創膏を剥がすと、小さな点状の傷があるだけで、痛みも全くない様子でした。数日後には、その傷もすっかりきれいになり、あれほど心配していた水いぼは、きれいに消え去っていました。もちろん、子どもの性格や水いぼの数によっては、もっと大変なケースもあるでしょう。しかし、麻酔テープという強力な味方があれば、ピンセットでの除去は、決して乗り越えられない治療ではない。それが、私の率直な体験談です。
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大人がかかると重症化しやすい水疱瘡の症状
水疱瘡は、一般的に「子どもの病気」というイメージが強いですが、免疫を持っていない大人が感染すると、子どもとは比較にならないほど、症状が重く、つらい経過をたどることが多いとされています。子どもの頃に水疱瘡にかかったことがなく、ワクチンも未接種の人は、特に注意が必要です。大人の水疱瘡は、まず、発疹が出現する前の「前駆症状」が、子どもよりも強く現れる傾向があります。1~2日間、39度を超えるような高熱と共に、インフルエンザのような激しい頭痛、筋肉痛、関節痛、そして強い全身倦怠感に襲われます。この時点では、まさか水疱瘡だとは思いもしないことが多いです。そして、その後に出現する「発疹」も、子どもに比べて、数が多く、一つ一つの水疱が大きくなる傾向があります。かゆみだけでなく、ズキズキとした痛みを伴うことも少なくありません。発疹が治った後も、色素沈着が長く残ったり、瘢痕(はんこん)になりやすかったりします。しかし、大人の水疱瘡で最も警戒しなければならないのが、「合併症」のリスクの高さです。最も頻度が高く、注意が必要な合併症が「水痘肺炎」です。これは、水痘・帯状疱疹ウイルスが、肺に直接感染して肺炎を引き起こすもので、特に喫煙者や、妊娠中の女性は、重症化するリスクが高いとされています。激しい咳や、胸の痛み、呼吸困難といった症状が現れ、入院治療や、時には人工呼吸器管理が必要となることもある、命に関わる状態です。また、「水痘脳炎」も、稀ですが重篤な合併症です。激しい頭痛や、嘔吐、意識障害、けいれんといった症状が現れ、後遺症を残す可能性もあります。これらの重篤な合併症を防ぐため、大人が水疱瘡を発症した場合は、早期に医療機関(内科や皮膚科)を受診し、ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」の投与を開始することが強く推奨されます。抗ウイルス薬は、発症から72時間以内に服用を開始すると、症状の重症化や合併症のリスクを軽減する効果が期待できます。
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麦粒腫はうつる?登園・登校や仕事への影響
ものもらい、特に麦粒腫ができた時、多くの人が心配することの一つに、「この病気は、他の人にうつるのだろうか?」という点があります。特に、小さなお子さんがいる家庭や、学校、職場など、集団生活を送る上では、気になる問題でしょう。結論から言うと、麦粒腫は、人に「うつらない」病気です。したがって、麦粒腫ができたからといって、インフルエンザや、はやり目(流行性角結膜炎)のように、学校や保育園、幼稚園を休む必要はありません。学校保健安全法においても、麦粒腫は出席停止が定められた感染症には分類されていません。同様に、大人の場合も、仕事を休む法的な義務はありません。では、なぜ、麦粒腫はうつらないのでしょうか。それは、麦粒腫の原因が、私たちの皮膚や鼻の中に普段から存在する「常在菌(主に黄色ブドウ球菌)」による、日和見感染だからです。つまり、外部から特殊な病原体が侵入して発症するのではなく、自分の体にもともといる菌が、体の抵抗力が落ちた時などに、たまたま増殖して炎症を起こしている状態なのです。その菌が、空気感染や飛沫感染で、他人に感染して、同じように麦粒腫を引き起こす、ということは、まず考えられません。また、ものもらいという俗称から、「人からものをもらうとできる」という迷信が生まれたり、あるいは地域によっては「めばちこ」「めいぼ」といった呼び名と共に、「見たらうつる」というような、誤った言い伝えが残っていたりすることも、混乱の原因となっているかもしれません。しかし、これらは全て、医学的な根拠のない迷信です。ただし、麦粒腫はうつらないとはいえ、一つ注意すべき点があります。それは、膿が破れて出てきた場合です。この膿の中には、原因となっている黄色ブドウ球菌が大量に含まれています。もし、膿に触れた手で、タオルや枕などを共有してしまうと、そのタオルを介して、他の人の目に菌が運ばれてしまう可能性は、ゼロではありません。その人が、たまたま目の周りに傷があったり、抵抗力が落ちていたりすれば、そこから感染を起こすリスクは考えられます。したがって、家庭内では、タオルの共用を避ける、といった、基本的な衛生管理を心がけるのが賢明です。
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ピンセット除去の痛みと麻酔テープ(ペンレス)の正しい使い方
水いぼのピンセット除去を検討する上で、保護者が最も心配し、躊躇する原因となるのが、処置に伴う「痛み」です。水いぼをピンセットでつまみ取るという行為は、当然ながら痛みを伴い、特に感受性の高い子どもにとっては、大きな恐怖と苦痛を伴う体験となり得ます。この痛みの問題を解決するために、現在では、多くの医療機関で「麻酔テープ」が積極的に活用されています。麻酔テープは、局所麻酔薬(リドカインなど)が染み込んだシール状の貼り薬で、代表的なものに「ペンレステープ」や「リドカインテープ」があります。これを、水いぼを除去する予定の場所に、処置の約1時間前から貼っておくことで、皮膚の表面の感覚を麻痺させ、ピンセットで取る際の痛みを大幅に、あるいはほとんど感じなくさせることができます。この麻酔テープの効果を最大限に引き出すためには、正しい使い方が非常に重要です。まず、医師から処方されたテープを、除去したい水いぼの上に、空気が入らないようにぴったりと貼り付けます。テープは、水いぼそのものよりも少し大きめに覆うように貼るのがコツです。そして、テープが剥がれないように、その上からさらに防水性のフィルム(ドレッシング材)などで覆うと、麻酔成分がより効果的に皮膚に浸透します。最も重要なのが、「貼る時間」です。十分な麻酔効果が得られるまでには、少なくとも1時間、できれば1時間半から2時間程度は貼っておく必要があります。病院へ行く直前に慌てて貼っても、効果は期待できません。医療機関によっては、受診する1〜2時間前に自宅で貼ってくるように、事前にテープを処方してくれるところも多いです。ただし、麻酔テープは医薬品であり、副作用(皮膚の発赤、かゆみ、稀にショック症状など)のリスクもゼロではありません。使用する際は、必ず医師の指示に従い、用法・用量を守ることが大切です。この麻酔テープの登場により、かつては子どもが泣き叫びながら押さえつけられて行われていた水いぼの除去が、はるかに穏やかで、人道的な治療へと変わりました。治療を検討する際は、麻酔テープの使用について、事前に医療機関に確認することをお勧めします。
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整形外科の役割、骨折の診断から治療、リハビリまで
骨折治療の主役となる「整形外科」。この診療科では、骨折に対して、どのようなアプローチで診断と治療が進められていくのでしょうか。まず、患者さんが「痛い、腫れている」と訴えて来院すると、医師は「問診」から診察を始めます。いつ、どこで、どのようにして怪我をしたのか、という受傷機転を詳しく聞き取ることは、骨折の有無や種類を推測する上で、非常に重要な情報となります。次に、「視診」と「触診」です。患部の腫れや変形、皮膚の色の変化などを目で見て確認し、痛みの最も強い場所(圧痛点)や、骨が異常に動く感じ(異常可動性)、骨がきしむ音(軋轢音)などを、手で触れて慎重に確かめます。そして、診断を確定させるために、最も重要な検査である「レントゲン(X線)撮影」が行われます。通常、2方向以上(正面と側面など)から撮影することで、骨の連続性が途絶えている「骨折線」や、骨のズレ(転位)の程度を、客観的に評価します。レントゲンだけでは判断が難しい、微細な骨折(不全骨折)や、関節内の複雑な骨折の場合は、さらに詳しく調べるために、「CT検査」や「MRI検査」が追加されることもあります。診断が確定すると、治療方針が決定されます。骨折治療の基本原則は、折れた骨を元の正しい位置に戻し(整復)、それが再びずれないように固定し(固定)、骨が癒合するのを待つ、というものです。骨のズレが少ない場合は、手術をしない「保存的治療」が選択されます。ギプスやシーネ、あるいは装具を用いて、骨がつくまでの数週間から数ヶ月間、患部を固定します。一方、骨のズレが大きい場合や、関節内の骨折、あるいは早期の社会復帰が望まれる場合には、手術的な治療が選択されます。手術では、金属製のプレートやスクリュー、釘(髄内釘)などを用いて、折れた骨を内側から強固に固定します(内固定)。手術のメリットは、より正確な整復が可能であることと、強固な固定によって、ギプス固定が不要になったり、早期からリハビリテーションを開始できたりする点にあります。そして、骨がある程度ついた後、治療の総仕上げとして重要になるのが、「リハビリテーション」です。長期間の固定によって硬くなった関節の動き(可動域)を回復させ、弱くなった筋力を取り戻すための運動療法を、理学療法士の指導のもとで行います。