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熱だけの段階で病院に行く意味はあるのか
突発性発疹の診断が、最終的に「熱が下がって、発疹が出てから」確定するのであれば、「高熱だけの段階で、わざわざ病院に行く意味はあるのだろうか?」と、疑問に思う保護者の方もいるかもしれません。確かに、典型的な経過をたどり、赤ちゃんの機嫌も良く、水分も摂れていれば、結果的には、自宅で様子を見ていても問題なかった、ということになるかもしれません。しかし、高熱が出ている段階で、一度、小児科を受診しておくことには、非常に大きな意味とメリットがあります。その最大の理由は、「危険な他の病気ではないことを、専門家である医師に確認してもらう」ためです。赤ちゃんが突然高熱を出す原因は、突発性発疹だけではありません。中には、早期に治療を開始しないと、重症化する可能性のある、細菌感染症が隠れていることもあります。例えば、「細菌性髄膜炎」や「菌血症」、「尿路感染症」といった病気です。これらの病気は、初期症状が高熱だけで、突発性発疹と見分けるのが非常に難しいことがあります。小児科医は、赤ちゃんの全身状態、機嫌、肌の色、呼吸の様子、そして診察所見から、これらの重篤な細菌感染症の可能性が低いかどうかを、専門的な視点で判断してくれます。また、喉や耳を診察することで、中耳炎や、溶連菌感染症といった、抗生物質による治療が必要な病気でないことも確認できます。このように、専門家による診察を受けることで、「重篤な病気の見逃し」という、最も避けるべきリスクを、最小限にすることができるのです。これは、保護者にとって、何物にも代えがたい「安心」に繋がります。さらに、高熱でぐったりしている赤ちゃんに対して、どのように水分補給をすればよいか、けいれんを起こした時にどう対処すればよいか、といった、家庭での具体的なケアの方法について、専門的なアドバイスをもらうこともできます。また、必要であれば、高熱によるつらさを和らげるための「解熱剤」を、安全な用法・用量で処方してもらうことも可能です。熱だけの段階での受診は、決して無駄足ではありません。それは、赤ちゃんの安全を守り、保護者の不安を和らげるための、非常に重要なステップなのです。
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【皮膚のトラブル】魚の目・タコ・イボ、痛みの原因と皮膚科の役割
足の裏の痛みの原因は、骨や筋肉、神経だけでなく、皮膚そのもののトラブルであることも少なくありません。特に、特定の場所に限局した、押すと芯があるような痛みを感じる場合、それは「魚の目(鶏眼)」や「タコ(胼胝)」、あるいは「ウイルス性のイボ(足底疣贅)」の可能性があります。これらの皮膚疾患の診断と治療を専門とするのが「皮膚科」です。まず、「魚の目(鶏眼)」と「タコ(胼胝)」は、どちらも足の裏の特定の場所に、慢性的な圧迫や摩擦が加わり続けることで、皮膚の角質が厚くなる状態です。タコは、皮膚の表面に向かって角質が広く厚くなるため、痛みはあまりなく、どちらかというと感覚が鈍くなることが多いです。一方、魚の目は、厚くなった角質が、皮膚の内側に向かって楔(くさび)状に芯のように食い込んでいくため、歩くたびにその芯が神経を圧迫し、強い痛みを引き起こします。特に、足の指の上や、指の間、足の裏の骨の出っ張った部分にできやすいです。これらの原因は、サイズの合わない靴や、歩き方の癖などによるものです。次に、「ウイルス性のイボ(足底疣贅)」は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが、皮膚の小さな傷口から感染することでできます。見た目は魚の目に似ていますが、表面がザラザラしていて、よく見ると小さな黒い点々(出血の跡)が見られるのが特徴です。削ると点状に出血します。魚の目と異なり、圧迫すると痛むだけでなく、横からつまんでも痛みを感じることがあります。また、ウイルス性なので、削ったりすると周囲に広がったり、他の人にうつしたりする可能性があります。皮膚科では、まず見た目や症状から、これらの疾患を鑑別診断します。鑑別が難しい場合は、表面を削ってウイルス性のイボに特徴的な所見があるかを確認します。治療は、それぞれ異なります。魚の目やタコは、厚くなった角質をメスや専用の器具で定期的に削り取る処置が基本です。同時に、原因となっている圧迫を取り除くため、靴の見直しや、保護パッド、インソールの使用が指導されます。一方、ウイルス性のイボの治療は、液体窒素でイボを凍らせて壊死させる「冷凍凝固療法」が一般的です。この治療は、数週間に一度、複数回の通院が必要となります。その他、サリチル酸の外用や、ヨクイニンの内服などが併用されることもあります。
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突発性発疹で病院へ、受診のタイミングと診療科
赤ちゃんの「初めての発熱」の原因として、最も多いとされる「突発性発疹」。ある日突然、38度を超える高熱が出るため、多くの新米パパ・ママは、パニックに陥ってしまうかもしれません。「すぐに病院へ連れて行くべきか?」「夜間救急に駆け込むべきか?」と、判断に迷うのは当然のことです。ここでは、突発性発疹が疑われる際の、適切な受診のタイミングと、診療科について解説します。まず、受診すべき診療科は、赤ちゃんと子どもの病気の専門家である、かかりつけの「小児科」です。小児科医は、突発性発疹の典型的な経過を熟知しており、他の似たような症状を示す病気(インフルエンザ、アデノウイルス感染症、川崎病など)との鑑別を、的確に行うことができます。次に、最も悩ましい「受診のタイミング」です。結論から言うと、突発性発疹が強く疑われる場合、必ずしも夜間や休日に、慌てて救急外来を受診する必要はありません。なぜなら、突発性発疹は、基本的に予後が良好なウイルス性疾患であり、特効薬もなく、治療は症状を和らげる対症療法が中心となるからです。受診の最も適切なタイミングは、「日中の診療時間内」です。ただし、これは、赤ちゃんの全身状態が良い、ということが大前提となります。具体的には、高熱はあっても、①機嫌がそれほど悪くなく、あやすと笑う、②母乳やミルク、水分を、いつも通りとはいかなくても、ある程度は飲めている、③顔色が悪くない、といった状態であれば、まずは家庭で水分補給やクーリングなどのケアをしながら、翌日の日中の診療時間にかかりつけ医を受診するので十分です。一方で、月齢が低い(特に生後3ヶ月未満の)赤ちゃんの発熱や、「ぐったりしていて活気がない」「水分を全く受け付けない」「けいれんを起こした」といった、危険なサインが見られる場合は、話は別です。この場合は、突発性発疹以外の、重篤な病気の可能性も考える必要があるため、夜間や休日であっても、ためらわずに救急病院を受診する必要があります。
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水いぼを広げないための予防と日常生活の注意点
水いぼは、一度できてしまうと、治癒までに長い時間がかかったり、痛みを伴う治療が必要になったりすることがあります。そのため、最も大切なのは、そもそも水いぼに「感染しない」こと、そして、もし感染してしまっても、それ以上「広げない」ことです。そのための予防策と、日常生活での注意点を理解しておきましょう。予防の基本は、「皮膚のバリア機能を高める」ことです。水いぼウイルスは、乾燥してカサカサしていたり、湿疹があったりする、バリア機能が低下した皮膚の、目に見えないような小さな傷から侵入します。したがって、日頃から、入浴後などに保湿剤を全身に塗り、肌を潤いのある健やかな状態に保つことが、最も効果的な予防策となります。特に、アトピー性皮膚炎を持つお子さんは、皮膚科医の指導のもと、ステロイド外用薬などで湿疹をしっかりとコントロールし、皮膚のバリアを正常に保つことが重要です。次に、もし水いぼができてしまった場合に、それを「広げない」ための対策です。最も重要なのが、「掻き壊しを防ぐ」ことです。水いぼには、かゆみを伴うことがあります。掻き壊すと、中のウイルスが飛び散り、周囲の皮膚に感染して、水いぼが爆発的に増える「自家接種」の原因となります。子どもの爪は常に短く切り、清潔に保ちましょう。かゆみが強い場合は、かかりつけ医に相談し、抗ヒスタミン薬の内服などを検討してもらいましょう。また、兄弟間での感染を防ぐための配慮も必要です。一緒の入浴は、肌が直接触れ合う機会となるため、できればシャワー浴にするか、水いぼがある子を最後に入れるなどの工夫をしましょう。バスタオルや、体を洗うスポンジ、水着などの共有は、絶対に避けてください。プールへの参加については、議論が分かれるところですが、現在では、日本臨床皮膚科医会や日本小児皮膚科学会から、「プールの水ではうつらないので、禁止する必要はない」という統一見解が出されています。ただし、タオルやビート板、浮き輪の共有を避けることや、掻き壊しを防ぐためにラッシュガードを着用するなどの配慮は、集団生活におけるマナーとして推奨されます。これらの地道な対策が、水いぼの感染拡大を防ぐための鍵となります。
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自宅でピンセットは絶対ダメ!水いぼ自己処理の危険性
子どもの体にできた水いぼを見て、「数が少ないうちなら、家にある毛抜きピンセットで自分で取ってしまえるのではないか?」と、安易に考えてしまう保護者の方がいるかもしれません。しかし、水いぼの自己処理は、絶対にやめてください。家庭でのピンセットによる除去は、メリットよりもはるかに大きなリスクを伴い、かえって症状を悪化させ、子どもの体に不要な傷跡を残してしまう可能性が非常に高い、危険な行為です。まず、最大のリスクが「不衛生な処置による細菌感染」です。医療機関で使用されるピンセットは、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)などによって、完全に滅菌処理されています。一方、家庭にあるピンセットは、いくらアルコールで拭いたとしても、無菌状態ではありません。不衛生な器具で皮膚に傷をつければ、そこから黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入し、傷口が化膿したり、周囲の皮膚が赤く硬く腫れる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」になったりする危険性があります。さらに、水いぼを掻き壊した場所に細菌が感染すると、ジュクジュクとした「とびひ(伝染性膿痂疹)」に移行し、体のあちこちに広がってしまうこともあります。次に、「不完全な除去による再発と拡大」のリスクです。水いぼの芯である「軟属腫小体」は、非常に小さく、もろいものです。専門家でないと、これを完全に取り除くのは難しく、少しでも取り残しがあれば、そこからウイルスが再び増殖し、同じ場所に再発してしまいます。また、処置の際にウイルスを含む内容物が周囲の皮膚に付着すると、そこから新たな水いぼが発生する「自家接種」を、かえって助長してしまうことになりかねません。そして、子どもの肌に「傷跡(瘢痕)」を残してしまうリスクも深刻です。無理な力でつまみ取ろうとすると、必要以上に皮膚を傷つけてしまい、クレーターのようなへこんだ跡や、色素沈着が永続的に残ってしまう可能性があります。痛みを伴う処置は、子どもに大きな恐怖心とトラウマを与え、その後の病院嫌いの原因にもなり得ます。水いぼの治療は、安全な医療機関で、適切な知識と技術を持った専門家(医師や看護師)に任せることが、最も確実で、子どもの体への負担が少ない方法なのです。
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糖尿病の三大合併症、なぜ早期発見が重要なのか
糖尿病という病気の本当に恐ろしい点は、病気そのものによる自覚症状が、初期にはほとんどないこと、そして、気づかないうちに、全身の血管に深刻なダメージを与え、様々な「合併症」を引き起こすことにあります。この合併症こそが、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させ、時には命に関わる事態を招く、最大の脅威なのです。糖尿病の合併症は、主に、細い血管が障害される「細小血管症」と、太い血管が障害される「大血管症」に分けられます。中でも、糖尿病に特有の合併症として知られるのが、細小血管症である「三大合併症」です。第一に、「糖尿病網膜症」です。これは、目の奥にある、光を感じるための重要な膜である「網膜」の細い血管が、高血糖によってダメージを受け、出血したり、詰まったりする病気です。初期には自覚症状が全くありませんが、進行すると、視力が低下し、最悪の場合は失明に至ります。成人の失明原因の、常に上位を占めるのが、この糖尿病網膜症です。第二に、「糖尿病性腎症」です。腎臓は、血液を濾過して、老廃物を尿として排出する、フィルターの役割を担っています。高血糖が続くと、この腎臓のフィルター機能を持つ、糸球体という部分の細い血管が傷つき、徐々に機能が失われていきます。進行すると、体内に老廃物が溜まってしまう「腎不全」という状態になり、最終的には、生命を維持するために、週に数回の「人工透析」が必要となります。第三に、「糖尿病性神経障害」です。これは、神経細胞に栄養を送る細い血管が障害されたり、高血糖そのものが神経にダメージを与えたりすることで、全身の末梢神経に異常が生じる病気です。足の先や裏から、ジンジン、ピリピリとした、しびれや痛みが始まることが多く、進行すると感覚が鈍くなり、怪我ややけどに気づきにくくなります。これが、足の潰瘍や壊疽の原因となるのです。これらの三大合併症は、いずれも、血糖コントロールを良好に保つことで、その発症や進行を、大幅に遅らせることができます。しかし、一度進行してしまうと、元の状態に戻すことは非常に困難です。だからこそ、自覚症状がない早い段階で、健康診断や検査によって糖尿病を発見し、手遅れになる前に、適切な治療と管理を開始することが、何よりも重要となるのです。
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骨折の応急処置、RICEの原則とは
骨折が疑われるような怪我をしてしまった時、救急車を待つ間や、医療機関を受診するまでの間に、適切な「応急処置」を行うことができるかどうかは、その後の痛みや腫れ、そして回復の経過に、大きな影響を与えます。外傷の応急処置の基本として、世界的に知られているのが、「RICE(ライス)処置」と呼ばれる、4つの原則です。このRICEは、Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)という、4つの処置の頭文字をとったものです。この手順を覚えておけば、いざという時に、冷静で的確な対応が可能になります。① Rest(安静): まず、最も重要なのが、受傷した部位を、動かさずに安静に保つことです。無理に動かしたり、体重をかけたりすると、痛みが増強するだけでなく、折れた骨のズレが大きくなったり、周囲の神経や血管を傷つけてしまったりする危険性があります。楽な姿勢で、患部を安定させましょう。② Icing(冷却): 次に、患部を冷やします。氷をビニール袋に入れたもの(氷嚢)や、保冷剤などを、タオルで包んで、腫れや痛みが最も強い部分に当てます。冷やすことで、血管が収縮し、内出血や腫れを抑え、痛みを和らげる効果があります。1回の冷却時間は、15分から20分程度を目安とし、凍傷を防ぐために、必ずタオルなどで覆って、直接皮膚に氷が当たらないように注意してください。③ Compression(圧迫): 冷却と同時に、弾性包帯やテーピング、あるいはタオルなどを使って、患部を適度に圧迫します。圧迫することで、内出血や腫れが広がるのを、さらに効果的に防ぐことができます。ただし、あまり強く巻きすぎると、血行障害や神経の圧迫を引き起こすため、指先がしびれたり、色が悪くなったりしないか、注意深く観察してください。④ Elevation(挙上): 最後に、患部を、心臓よりも高い位置に挙げるようにします。例えば、足首を骨折した場合は、クッションや枕の上に足を乗せ、腕を骨折した場合は、三角巾などを使って腕を吊ります。重力を利用して、患部に血液や体液が溜まるのを防ぎ、腫れを軽減させるのが目的です。このRICE処置は、あくまで医療機関を受診するまでの応急処置です。骨が明らかに変形している場合や、激しい痛みが続く場合は、速やかに整形外科などの専門医の診察を受けてください。
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マイコプラズマと他の発熱性疾患との鑑別
高熱と咳が続く場合、その原因が必ずしもマイコプラズマ感染症であるとは限りません。特に、治療を行っても熱が下がらない場合は、「そもそも診断が違うのではないか?」という視点を持つことも重要です。医師は、常に他の様々な発熱性疾患の可能性を念頭に置きながら、鑑別診断を進めています。マイコプラズマと症状が似ており、鑑別が必要となる代表的な病気をいくつか紹介します。まず、冬場であれば、最も鑑別すべきは「インフルエンザ」です。インフルエンザは、突然の高熱と、強い悪寒、頭痛、筋肉痛・関節痛といった、激しい全身症状で発症するのが特徴です。マイコプラズマも高熱や倦怠感を伴いますが、インフルエンザほどの急激で激烈な全身症状は、比較的少ないとされています。次に、同じく非定型肺炎の原因となる「クラミジア肺炎」や、近年注目されている「ヒトメタニューモウイルス感染症」も、マイコプラズマと症状が酷似しており、臨床症状だけで見分けるのは非常に困難です。また、子どもの間で流行する「アデノウイルス感染症(プール熱)」は、高熱と、喉が真っ赤に腫れる強い咽頭炎、そして目の充血(結膜炎)を三主徴とします。目の症状が、鑑別の大きなポイントとなります。細菌感染症としては、「百日咳」も、特に初期は風邪様の症状から始まり、発熱を伴うことがあります。その後、特徴的な発作性の激しい咳(痙咳)に移行していきます。そして、最も注意深く鑑別しなければならないのが、肺炎球菌などによる「細菌性肺炎」です。細菌性肺炎は、マイコプラズマの乾いた咳とは対照的に、黄色や緑色の膿のような痰を伴うことが多く、胸の痛みを訴えることもあります。重症化しやすいため、早期の抗生物質治療が不可欠です。さらに、稀ではありますが、「川崎病」も、高熱と咳で発症することがあります。川崎病は、5日以上続く発熱に加え、目の充血や、いちご舌、首のリンパ節の腫れ、不定形の発疹といった、特徴的な他の症状を伴います。これらの病気は、それぞれ治療法が全く異なります。熱が下がらない場合は、これらの他の病気の可能性も考え、血液検査や、各種の迅速検査、レントゲン撮影など、追加の検査を行い、原因を再評価することが、正しい治療へと繋がるのです。