-
私が経験した蕁麻疹と高熱の恐怖
それは、仕事で大きなプロジェクトを終え、心身ともに疲れ果てていた、ある週末の夜のことでした。ようやく訪れた休息の時間、シャワーを浴びてソファでくつろいでいると、ふと、腕に数カ所、蚊に刺されたような赤い膨らみができているのに気づきました。最初は「ダニにでも刺されたかな」と、軽く考えていました。しかし、その膨らみは、数分後には、まるで地図を描くかのように、お互いが融合し、腕全体を覆うほどの、大きな赤いまだら模様へと変化していったのです。そして、それと同時に、経験したことのないほどの、猛烈な痒みが襲ってきました。皮膚の内側から、無数の針で刺されているかのような、狂おしいほどの痒み。私は、パニックになりながらも、必死で掻きむしるのを堪えました。しかし、異変はそれだけではありませんでした。体の芯から、ゾクゾクとした悪寒が走り始め、体がガタガタと震え出したのです。体温を測ってみると、三十八度五分。明らかに、異常事態でした。蕁麻疹と、高熱。この二つの症状が、私の頭の中で危険な信号として結びつきました。夜間救急病院に電話をかけると、すぐに来るようにと言われ、私は、おぼつかない足取りでタクシーに乗り込みました。病院の待合室で待っている間も、蕁麻疹は、腕から胸、背中、そして太ももへと、その勢力を拡大し続けていました。鏡に映った自分の姿は、まるで全身が真っ赤に腫れ上がった、怪物のようでした。診察の結果、医師から告げられた病名は、「感染症に伴う急性蕁麻疹」でした。おそらく、過労で免疫力が低下しているところに、何らかのウイルスに感染し、それが引き金となって、アレルギー反応が全身に現れたのだろう、と。点滴を受け、抗ヒスタミン薬と解熱剤を処方されて帰宅しましたが、あの夜の、自分の体が自分のものでなくなっていくような、得体の知れない恐怖は、今でも鮮明に覚えています。たかが蕁麻疹、と侮ってはいけません。それが、高熱を伴う時、体は、私たちが見えない場所で、未知の敵と懸命に戦っているのです。そのSOSのサインを、決して見逃してはならない。あの夜の体験は、私に、自分の体を過信することの恐ろしさを、痛いほど教えてくれました。
-
大人の手足口病と後遺症の恐怖
大人の手足口病は、その急性期の症状が、子供に比べてはるかに重篤でつらいものであることは、広く知られるようになってきました。しかし、その本当の恐ろしさは、ウイルスが去った後、つまり回復期に現れる、奇妙で不快な「後遺症」にこそあるのかもしれません。高熱と激痛という、嵐のような一週間を乗り越えた後、多くの大人が、さらなる試練に見舞われるのです。最も多くの人が経験する後遺症、それは「爪の剥離・変形」です。手足口病の症状が治まってから、一ヶ月から二ヶ月ほど経った頃、突然、手や足の爪が、根元の方から浮き上がり始め、痛みもなく、ポロリと剥がれ落ちてしまうのです。これは「爪甲脱落症」と呼ばれ、手足口病の回復期に特有の症状として知られています。発症のメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、高熱やウイルスの影響で、一時的に爪を作る組織(爪母)の働きが停止し、その部分の爪が正常に作られなくなることが原因ではないか、と考えられています。全ての爪が一度に剥がれることもあれば、数本だけが、時間をかけて順番に剥がれていくこともあります。幸いなことに、剥がれた爪の下からは、すでに新しい爪が再生し始めており、数ヶ月かけて、元通りのきれいな爪に生え変わります。しかし、爪が完全に生え揃うまでの間、見た目の問題や、指先に力が入りにくいといった不便さを強いられることになります。また、もう一つの特徴的な後遺症が、「手足の皮が、大規模に剥ける」という現象です。水疱ができた手のひらや足の裏の皮膚が、まるで日焼けの後のように、あるいは脱皮するかのように、ベロベロと広範囲にわたって剥けてきます。これも、ウイルスの影響で、皮膚のターンオーバーが異常に亢進するためと考えられています。これもまた、見た目には衝撃的ですが、痛みはなく、自然に治癒していきます。これらの後遺症は、直接的に命に関わるものではありません。しかし、その奇妙な症状は、多くの人に「自分の体は、一体どうなってしまったのだろう」という、新たな不安と精神的なストレスを与えます。手足口病の戦いは、熱が下がった後も、まだしばらく続くということを、覚悟しておく必要があるのです。
-
私が経験した大人の手足口病の地獄
全ての始まりは、些細な喉の違和感と、体の気だるさでした。最初は、夏風邪でもひいたのだろうと、軽く考えていました。しかし、その夜、私の体は、まるで未知のウイルスに乗っ取られたかのように、急速に異常をきたし始めたのです。体温は三十九度を超え、全身の関節が、まるで錆びついた機械のようにギシギシと痛み、悪寒で歯の根が合わないほど震えが止まりませんでした。そして、翌朝、鏡を見て私は愕然としました。手のひらと、足の裏に、無数の赤い発疹が、まるで地図のように広がっていたのです。それは、ただの発疹ではありませんでした。一つ一つが、水ぶくれとなり、触れると、焼けた鉄板に押し付けられたかのような、鋭い痛みが走りました。歩くたびに、足の裏の無数の水疱が潰れるような激痛が走り、トイレに行くことさえ、一大決心が必要でした。しかし、本当の地獄は、口の中にありました。舌も、頬の内側も、喉の奥も、おびただしい数の口内炎で埋め尽くされ、口の中は、まるでガラスの破片を詰め込まれたかのように、常に激痛に苛まれていました。水を飲むことさえ、涙が出るほどの苦痛。食事など、もってのほかです。空腹と喉の渇き、そして全身の痛みと発熱。私は、数日間、ただベッドの上で、痛みに耐えながら、ひたすら時間が過ぎるのを待つことしかできませんでした。病院で「大人の手足口病ですね。特効薬はありません」と告げられた時の、あの絶望感。子供がかかる、ただの夏風邪。そんな生易しいものでは、断じてありませんでした。それは、日常生活の全てを奪い去り、人間としての尊厳さえも脅かす、まさに「地獄」と呼ぶにふさわしい、壮絶な体験でした。症状がピークを越え、ようやくゼリーが少しだけ食べられるようになった時の、あの感動。そして、数週間後、ボロボロになった手足の皮が、まるで脱皮するかのように剥けてきた時の、体が再生していくことへの、不思議な感慨。あの一週間の記憶は、私の心と体に、今もなお、鮮明な傷跡として残り続けています。
-
手足口病の感染経路と予防策
手足口病は、非常に感染力が強いウイルス性の感染症であり、特に、子供たちが集団生活を送る保育園や幼稚園では、毎年夏になると、爆発的な流行を繰り返します。大人への感染は、そのほとんどが、家庭内にウイルスを持ち帰った子供から、看病をする親へと伝播する「家庭内感染」です。大切な家族を守り、そして自分自身が、あのつらい症状に苦しまないためにも、手足口病の正しい感染経路と、その連鎖を断ち切るための、効果的な予防策を、正確に理解しておくことが非常に重要です。手足口病の主な感染経路は、三つあります。第一に、「飛沫感染」です。感染者の咳やくしゃみ、あるいは会話の際に飛び散る、ウイルスを含んだ飛沫(しぶき)を、鼻や口から吸い込んでしまうことで感染します。第二に、「接触感染」です。感染者が触れたドアノブや手すり、おもちゃなどに付着したウイルスに、別の人が触れ、その手で目や鼻、口を触ることによって、ウイルスが体内へと侵入します。水ぶくれの中の液体にも、ウイルスが含まれているため、破れた水疱に触れることでも感染します。そして、第三の、そして最も厄逸で、長期にわたって注意が必要なのが、「糞口感染」です。回復して、症状がなくなった後でも、感染者の便の中には、二週間から、時には四週間以上にわたって、ウイルスが排出され続けます。おむつ交換の後などに、手洗いが不十分なまま、食事の準備などをすると、そこから感染が広がってしまうのです。これらの感染経路を断ち切るための、最も基本的で、そして最も効果的な予防策、それは「手洗い」と「咳エチケット」の徹底です。外出から帰った後、トイレの後、そして食事の前には、必ず石鹸と流水で、指の間や手首まで、丁寧に手を洗いましょう。アルコール消毒も有効ですが、手足口病の原因となるエンテロウイルスは、アルコールが効きにくいタイプのウイルス(ノンエンベロープウイルス)であるため、石鹸による物理的な洗い流しの方が、より確実です-。また、感染が疑われる場合は、マスクを着用し、咳やくしゃみをする際は、ティッシュや腕の内側で口と鼻を覆う「咳エチケット」を心がけましょう。タオルや食器の共用を避けることも、家庭内での感染拡大を防ぐ上で重要です。