大人の手足口病は、その急性期の症状が、子供に比べてはるかに重篤でつらいものであることは、広く知られるようになってきました。しかし、その本当の恐ろしさは、ウイルスが去った後、つまり回復期に現れる、奇妙で不快な「後遺症」にこそあるのかもしれません。高熱と激痛という、嵐のような一週間を乗り越えた後、多くの大人が、さらなる試練に見舞われるのです。最も多くの人が経験する後遺症、それは「爪の剥離・変形」です。手足口病の症状が治まってから、一ヶ月から二ヶ月ほど経った頃、突然、手や足の爪が、根元の方から浮き上がり始め、痛みもなく、ポロリと剥がれ落ちてしまうのです。これは「爪甲脱落症」と呼ばれ、手足口病の回復期に特有の症状として知られています。発症のメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、高熱やウイルスの影響で、一時的に爪を作る組織(爪母)の働きが停止し、その部分の爪が正常に作られなくなることが原因ではないか、と考えられています。全ての爪が一度に剥がれることもあれば、数本だけが、時間をかけて順番に剥がれていくこともあります。幸いなことに、剥がれた爪の下からは、すでに新しい爪が再生し始めており、数ヶ月かけて、元通りのきれいな爪に生え変わります。しかし、爪が完全に生え揃うまでの間、見た目の問題や、指先に力が入りにくいといった不便さを強いられることになります。また、もう一つの特徴的な後遺症が、「手足の皮が、大規模に剥ける」という現象です。水疱ができた手のひらや足の裏の皮膚が、まるで日焼けの後のように、あるいは脱皮するかのように、ベロベロと広範囲にわたって剥けてきます。これも、ウイルスの影響で、皮膚のターンオーバーが異常に亢進するためと考えられています。これもまた、見た目には衝撃的ですが、痛みはなく、自然に治癒していきます。これらの後遺症は、直接的に命に関わるものではありません。しかし、その奇妙な症状は、多くの人に「自分の体は、一体どうなってしまったのだろう」という、新たな不安と精神的なストレスを与えます。手足口病の戦いは、熱が下がった後も、まだしばらく続くということを、覚悟しておく必要があるのです。