高齢者が、軽い転倒、例えば、室内でつまずいて尻もちをついただけ、あるいは、ベッドから落ちただけといった、若い人であれば何でもないような、わずかな外力で骨折してしまうことがあります。このような、弱い力で起こる骨折を「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と呼び、その背景には、骨がもろくなる病気である「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」が隠れていることがほとんどです。高齢者の骨折は、単なる怪我にとどまらず、その後の生活の質(QOL)や、生命予後にも大きな影響を及ぼす、深刻な問題です。高齢者の脆弱性骨折が起こりやすい代表的な部位が、①背骨(脊椎椎体骨折)、②手首の骨(橈骨遠位端骨折)、③腕の付け根の骨(上腕骨近位端骨折)、そして、④足の付け根の骨(大腿骨近位部骨折)の四つです。特に、最も問題となるのが、「大腿骨近位部骨折」です。この骨折をすると、ほぼ全てのケースで手術が必要となり、長期間の入院とリハビリテーションを余儀なくされます。そして、この骨折をきっかけに、歩行能力が低下し、自分で身の回りのことができなくなり、最終的には「寝たきり」や「要介護状態」に陥ってしまう危険性が非常に高いのです。また、背骨の圧迫骨折は、強い痛みを伴い、背中が丸くなって身長が縮んだり、内臓が圧迫されて呼吸機能や消化機能が低下したりする原因にもなります。高齢者の骨折を治療する際には、骨折そのものの治療と同時に、その根本原因である「骨粗訟症」の診断と治療を、並行して開始することが、次の骨折を防ぐ(二次骨折予防)ために、極めて重要です。骨粗鬆症の診断と治療は、主に「整形外科」が担当しますが、「内科」や「婦人科」でも行われています。骨密度測定で骨の強度を評価し、骨の吸収を抑える薬や、骨の形成を促す薬など、多彩な治療薬の中から、患者さんの状態に合ったものが選択されます。また、食事療法(カルシウムやビタミンD、ビタミンKの摂取)や、骨に刺激を与える運動療法も、治療の両輪となります。高齢者の骨折は、本人だけでなく、家族や社会全体で支えていくべき、重要な課題なのです。
骨粗鬆症と骨折、高齢者の骨折で注意すべきこと