マイコプラズマ感染症の治療を受けているにもかかわらず、38.5度以上の高熱が、48時間から72時間以上たっても解熱しない。この場合、医師がまず考えるのが、「マクロライド耐性マイコプラズマ」に感染している可能性です。マイコプラズマは、「細胞壁」を持たないという特殊な性質を持つ微生物です。そのため、多くの細菌感染症で使われる、細胞壁の合成を阻害するペニシリン系やセフェム系の抗生物質は、全く効果がありません。マイコプラズマに有効なのは、菌のリボソームという器官に作用し、タンパク質の合成を阻害するタイプの抗生物質、すなわち「マクロライド系」「テトラサイクリン系」「ニューキノロン系」の三種類です。この中で、マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は、副作用が比較的少なく、子どもにも安全に使えることから、長年にわたり、マイコプラズマ感染症治療の第一選択薬として、世界中で広く使用されてきました。しかし、皮肉なことに、この広範な使用が、マクロライド系薬物では死なない、しぶとい耐性菌の出現と蔓延を招いてしまったのです。特に、日本の耐性菌の割合は、世界的に見ても非常に高く、近年の報告では、小児から分離されるマイコプラズマの8割以上が、マクロライド耐性であるとも言われています。したがって、最初に処方されたマクロライド系の薬で熱が下がらない場合は、治療方針の転換、すなわち「治療薬の変更(セカンドラインへのスイッチ)」が必要となります。その場合の選択肢となるのが、テトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)や、ニューキノロン系(トスフロキサシンなど)の抗生物質です。これらの薬は、マクロライド耐性菌に対しても、高い効果を発揮します。ただし、これらの薬には、子どもへの使用に関して、注意すべき点があります。テトラサイクリン系は、8歳未満の小児に使用すると、歯が黄色く着色してしまう副作用(歯牙黄染)の可能性があるため、原則として使用されません。また、ニューキノロン系も、動物実験で関節軟骨への影響が示唆されていることから、小児への使用は、そのリスクとベネフィットを慎重に考慮した上で、判断されます。医師は、患者の年齢や重症度を鑑み、これらの代替薬の中から、最適なものを選択します。薬を変更した後、速やかに解熱するようであれば、耐性菌が原因であった可能性が非常に高いと言えるでしょう。
急増する薬剤耐性マイコプラズマと治療薬の変更