ある日、父が着替えている時に、足の付け根のあたりを気にしながら、不自然な動きをしているのに気づきました。問い詰めてみると、そこが少し膨らんでいるけれど、「痛くないし、恥ずかしいからいいんだ」と顔を赤らめて言うのです。私は直感的にそれが脱腸、つまり鼠径ヘルニアではないかと思いました。しかし、頑固な父をどこの病院の何科に連れて行けばいいのか、そしてどうやって納得させるか、私は数日間悩むことになりました。多くの高齢男性にとって、股間の近くの悩みは人に見せるのが憚られる、デリケートな問題です。「もう年だから」「手術なんて大げさだ」という拒絶反応を前に、私は感情的に説得するのではなく、論理的かつ優しくアプローチすることにしました。まず、この病気は決して珍しいものではなく、日本で年間数万人が治療を受けている「身体の構造上の緩み」であることを説明しました。車のタイヤがすり減って修理が必要になるのと同じで、決して恥ずべきことではないと伝えたのです。そして、最も効果的だったのは、受診すべき診療科が「外科」であることを明確に告げたことでした。「内科で延々と薬を飲んだり検査をしたりするんじゃなくて、外科の先生なら一目見れば解決策を教えてくれるよ。専門の窓口があるから、安心していいんだ」と話しました。外科という言葉に身構えるかと思いましたが、逆に「専門の技術でサッと直せる」というプロフェッショナルな響きが、父の安心感に繋がったようです。また、最近の医療事情として、入院期間が非常に短いこと、場合によっては日帰りでも可能なこと、そして何より「今なら簡単に治せるけれど、放置して激痛が出た後だと大きな手術になってしまう」という将来のリスクを、脅すのではなく、慈しみの気持ちを込めて話しました。私たちは結局、消化器外科の「ヘルニア外来」という名前のついた病院を一緒に予約しました。診察室から出てきた父の顔は、それまでの暗い表情が嘘のように晴れやかでした。「先生が『お父さん、これは簡単に綺麗になりますよ』と言ってくれた。もっと早く来ればよかったな」と苦笑いしていました。家族として大切なのは、本人のプライドを傷つけずに、適切な診療科へエスコートすることです。外科は命を救う場所であると同時に、こうした「生活の困りごと」を劇的に解決してくれる場所でもあります。もし大切な家族が同じような悩みを抱えていたら、どうか一人で抱え込ませず、信頼できる外科医の元へ背中を優しく押してあげてください。その小さな一歩が、家族全員の笑顔を取り戻すきっかけになるのですから。