救急現場の最前線に立つ医師の視点から、熱中症で病院を訪れるべき判断基準と、診療科の選択についてお話しします。私たちが熱中症患者さんを受け入れる際、最も重要視するのは「重症度(ステージ)」です。これを知っておくことは、皆さんが「近所のクリニックの内科」へ行くべきか、それとも「救急車を呼んで救急科」に来るべきかを判断する明確な指針となります。まず、ステージ一に分類される軽症の場合、症状はめまい、立ちくらみ、足の筋肉痛(熱失神や熱痙攣)です。この段階で、涼しい場所で水分を摂っても改善しない、あるいは不安があるという方は、お近くの「内科」を受診してください。点滴一本で劇的に回復することも多い段階です。次に、ステージ二の中等症。ここでは頭痛、吐き気、嘔吐、身体の強いだるさ(熱疲労)が現れます。この状態は身体が限界を訴えているサインです。もし自力で内科クリニックへ行けるのであれば良いですが、歩くのが辛い、吐いてしまって水分が摂れないという場合は、迷わず総合病院の「救急外来」を受診するか、タクシー等を呼んで医療機関へ向かってください。そして、ステージ三の重症。意識がない、呼びかけに答えられない、痙攣している、あるいはまっすぐ歩けない(熱射病)といった症状は、命に関わる「脳や臓器のオーバーヒート」を意味します。この場合は一刻を争います。何科へ行くかではなく、直ちに一一九番通報を行い、「救急車」で救急救命センターへ搬送される必要があります。救急現場では、全身を急速冷却するための特殊な処置や、気道確保、集中的な循環管理が行われます。医師として強調したいのは、熱中症は「予防できる病気」である一方で、「一度進行し始めると加速度的に悪化する病気」であるということです。特に、水分補給に塩分が含まれていない場合、血液中のナトリウム濃度が下がり、さらなる痙攣を招くこともあります。病院の内科や救急科では、こうした微細な血中バランスの崩れを補正するための「医療用点薬」を用います。また、受診の判断に迷った場合は、全国共通の救急相談ダイヤル「#7119」を活用してください。看護師などの専門家が、あなたの症状を聞き取り、適切な診療科や緊急性をアドバイスしてくれます。熱中症は、適切なタイミングで適切な診療科にかかれば、多くの場合後遺症なく治癒します。しかし、我慢して受診が数時間遅れるだけで、その後の人生を左右するようなダメージを負うこともあります。「まだ大丈夫」という過信を捨て、身体の異変を科学的に評価できる医師の元へ足を運ぶ勇気を持ってください。
救急外来の医師が教える熱中症の重症度別受診先と診療科