高齢者の熱中症は、私たちが想像する以上に複雑で、発見が遅れやすい性質を持っています。加齢に伴い、喉の渇きを感じる感覚が鈍くなり、暑さを感知する能力も低下しているため、本人に自覚がないままに症状が進行してしまう「隠れ熱中症」が非常に多いのです。また、高齢者は心臓病や腎臓病、高血圧などの持病を抱えていることが多く、熱中症による身体へのダメージが致命的になりやすいという特徴もあります。家族や周囲の人が「いつもと様子が違う」「口数が少ない」「身体が熱い」といった異変に気づいたとき、まず向かうべき診療科は、普段から持病を診てもらっている「かかりつけの内科」です。かかりつけの内科医は、患者さんの普段の健康状態や服用している薬(特に利尿剤や血圧降下剤など熱中症に影響を及ぼすもの)を把握しているため、急な体調不良の原因が熱中症なのか、あるいは持病の悪化なのかを迅速に切り分けることができます。もし、かかりつけ医が休診の場合や、持病がない場合は、地域の一般内科、あるいは「老年内科」を受診するのが適切です。高齢者の熱中症で特に注意すべきなのは、食欲不振やふらつきといった、一見すると「夏バテ」や「老い」のせいだと思われがちな症状です。これらを放置して数日が経過すると、慢性的な脱水状態から意識障害や多臓器不全を招く恐れがあります。そのため、少しでもおかしいと感じたら、早めに内科を受診し、点滴や検査を受けることが推奨されます。受診の際、医師は血液検査でナトリウムやカリウムといった電解質のバランスを細かくチェックします。高齢者の場合、点滴による水分補給も慎重に行わなければなりません。一気に水分を入れすぎると心臓に負担がかかり、心不全を誘発するリスクがあるため、内科医による緻密な循環管理が求められます。また、重症化して意識が混濁したり、自力で起き上がれなくなったりした場合は、迷わず救急車を呼び、総合病院の「救急科」での集中的な治療に委ねてください。高齢者の熱中症は、住み慣れた自宅の室内で発生することが圧倒的に多く、エアコンの使用をためらったり、不適切な水分摂取が原因となったりすることがほとんどです。診察の際には、医師や看護師から「環境の見直し」についてのアドバイスを仰ぐことも大切です。家族としては、何科を受診するかという知識とともに、高齢者の身体が発する微かなSOSを拾い上げ、医療機関へと繋ぐ「橋渡し」の役割を果たすことが、地域で共に健やかに暮らしていくための最大のサポートとなります。