その年の夏は、私にとって人生で最も「気持ち悪い」感覚に悩まされた季節でした。都心のオフィスビルに勤務する私は、毎朝の通勤電車から降りた瞬間に立ち込める熱気と、その直後に一歩踏み入れる冷房の効きすぎたフロアの寒暖差に翻弄されていました。最初のうちは少し身体がだるい程度でしたが、お盆を過ぎる頃には、朝起きた時から胃の奥に何か重い石が置かれているような不快感があり、何を見ても食べたいと思えなくなっていました。特に辛かったのは昼食の時間です。同僚たちに誘われてランチに出ても、一口運ぶごとに喉の奥から込み上げてくるような吐き気があり、結局サラダを半分食べるのが精一杯でした。周囲からは「夏バテだね」と軽く言われましたが、本人にとっては一日中続く船酔いのような感覚は、精神的にもかなりの苦痛でした。夜も寝苦しさから何度も目が覚め、翌朝はさらに胃の状態が悪化するという悪循環に陥っていました。転機となったのは、実家の母に相談した際のアドバイスでした。「あんた、暑いからって氷ばっかり食べて、お腹を冷やしきってるんじゃないの?」と言われ、ハッとしました。確かに、デスクでは常に氷たっぷりのアイスコーヒーを飲み、夜は冷たいビールやアイスクリームで涼を取るのが日課になっていました。そこで私は、意識的に生活をガラリと変えてみることにしました。まず、仕事中の飲み物を温かいハーブティーや白湯に変えました。最初は暑苦しく感じましたが、飲み始めて数日すると、不思議なことに胃の奥の重苦しさがじわじわと解けていくのを感じました。また、冷房対策としてオフィスでも腹巻を着用するようにしました。これによって、足元からの冷気で内臓が冷えるのを防ぐことができました。さらに、食事には梅干しや大根おろし、お粥といった消化に良いものを中心に据え、少量ずつ回数を分けて摂るようにしました。二週間ほどこうした「温める生活」を続けた結果、あんなに頑固だった吐き気が嘘のように消え、空腹を感じる喜びを再び味わうことができるようになりました。夏バテの気持ち悪い症状は、冷やしすぎた身体からの切実な警告だったのだと、今は身をもって理解しています。便利さに頼り切り、自分の内臓を痛めていた反省を込めて、今では夏こそ温かいものを大切にする暮らしを続けています。